日中韓の学生によるアニメーション共同制作Co-workは、2016年に文部科学省「大学の世界展開力強化事業」において「アジア諸国等との大学間交流の枠組み強化」(キャンパス・アジア)に採択され、その5年間の採択期間を終え、2021年からは次のモードである「アジア高等教育共同体(仮称)形成促進」(キャンパス・アジアプラス)へシフトし、初年度の活動を行った。
これからのCo-workおよびアジア間の高等教育共同プログラムをさらに発展させる方法を探るべく、連携校と協力校、かつてCo-workに参加して現在は作家として目覚ましい活躍をしているゲストを招き、ZOOMウェビナーによるシンポジウムを開催した。
この会ではアプリケーションInterprefyを介して日本語、韓国語、中国語、英語の同時通訳を行った。視聴は一般にも開かれ無料としたが、オンラインチケットサービスEventbriteを使用して観客の募集と管理を行い、当日は60名の参加があった。
2022年1月21日(金)15:00〜18:00(日本時間)
日中韓英同時通訳
ウェビナー開催
2014年東京藝術大学大学院映像研究科修了。
修了制作「コップの中の子牛」がクロック国際アニメーション映画祭(ロシア、ウクライナ)のグランプリ、富川国際アニメーション映画祭(韓国)のグランプリ、シュトゥットガルト国際アニメーション映画祭(ドイツ)のヤングアニメーション賞、文化庁メディア芸術祭(日本)新人賞など、世界で24の賞を受賞。
2019年共同設立者の一人としてFeinaki北京アニメーションウィークを設立し、アーティスティック・ディレクターを担当。中国伝媒大学アニメーション専攻非常勤講師。2021年オムニバスアニメーション映画「明るい方へ」のエグゼクティブ・プロデューサーを担当。
第一部の基調講演では、シュ・ゲンドウ氏は自身のCo-work参加経験やその後の国際的な活動を通して得た、アニメーション文化発展における国際交流の重要性について基調講演で語った。
自身の幼少期からの様々な国で制作されたアニメーションの視聴経験から、アニメーションのもつ「異なる文化や暮らしを伝える力」に興味を持ち、それがきっかけで日本への留学を決意し、そこで制作した作品が世界各国で評価されることによってさらに多くの国の文化を知ることができたという経験から、アニメーションは文化の異なるもの同士が交流するための鍵になるということを強調した。
また中国のアニメーション史の中では、初期段階から日本の持永只仁やチェコのイジー・トルンカなどのクリエーターとの国際交流があり、そのことが中国のアニメーション文化発展に重要な役割を果たしたと語った。氏は「中国のアニメーション文化の発展には国際的な視野が不可欠」という思いから、2019年にFeinaki Beijing Animation Weekを立ち上げ、現在はアーティスティックディレクターを担い、多くの海外のアニメーション作家やキュレーターを招待し、国際交流に励んでいる。また氏がエグゼクティブプロデューサーを務めた2021年制作のアニメーション映画「明るい方へ」では多くの留学経験のあるインディペンデント作家を起用し、それぞれ独自のスタイルを持った7つのチャプターからなる短編オムニバス映画となり、高い評価を得ている。
国際交流がアニメーションの創作、教育には非常に深い意味があると語り、コロナ禍でも続くCo-workの意義を強調し、今後の発展への期待を述べ、講演の結びとした。
第二部では、Co-work2021の開催概要を報告後、参加学生による成果発表を行なった。
成果発表では、作品を上映後、作品のコンセプトや狙い、制作当時の試行錯誤の過程などを発表した。その後、連携校の教員とゲストによる成果に対する感想や今後に関する意見を共有した。ゲストからは今回完成した作品の質や表現の多様性に対しての賞賛の声が上がった。
韓国綜合芸術学校のイ教授からは、Co-workを起点とした様々な国家間交流プログラムを例に挙げ、これまでの活動が実際に成果を挙げており、さらなる発展をすることに対する期待が述べられた。
中国伝媒大学のジャ教授からは、これまでの活動が3国の学校のみならず政府からも評価を得ていることを評価する一方、反省点として学生のマネージメント方法をモデル化して普及していくこと、より広く社会に向けてプロモーションしていくことの必要性が述べられた。
最後に東京藝術大学の岡本教授から、このプログラムを経た学生の今後の人脈の発展に期待が述べられ、継続的にコミュニケーションをとることのできるプラットフォームの形成していく必要性が提案された。
第三部では、「アジアアニメーション教育ネットワーク(AAEN)発足に向けて」と題してシンポジウムを行なった。
議論の起点として、岡本教授からAAEN構想についての発表があった。この事業では日中韓、およびASEAN各国の大学がネットワークを作り、教育カリキュラムの構築や、様々な交流プログラムの実施、知見や情報の共有などを通して、アニメーション教育研究の共同プラットフォームを構築していくことを目指す。それにより将来のアジアのアニメーション文化、産業を担う人材を育成し、新たな表現や技術を開発し、アニメーションを中心とした、アジア文化経済圏のさらなる発展に貢献することを目指している。
今後のCo-workやその他のアニメーションワークショップにおいては、LEE教授とJIA教授からは、本来アニメーションの教育においては対面での実施の望ましいとしながらもメタバースの活用を模索することでパンデミックの中でもそれまで以上に意義のある実施方法を見出すことができるのではないかという意見があげられた。
これまではオンラインとオフラインでの取り組みの中で実施されてきたが、バーチャル空間をそのどちらでもなく間をつなぐものとして捉え、これまで以上に良いオフラインでの交流を得るための積極的活用への期待も述べられた。
AAENの学部向けプログラムとしてのオンラインで開講するレクチャーについては、まだまだ授業カリキュラムの整っていないラオス国立美術学校のプミポン教授からは、パンデミックの状況下にある現在においては非常に有効な手段であるという好意的な意見があげられた。
最後に岡本教授は、ネットワークすることの目的というのは、人と人が繋がっていくことであり、それを目指すAAENの記念すべき第一回のシンポジウムで韓国、中国、タイ、ラオス、日本から教員が集まり、かつCo-work卒業生の代表として現在目覚ましい国際的な活躍をしているシュ・ゲンドウ氏をゲストに招くことができたことに、今後のあるべき姿を見出したように思うと述べた。
リアルな空間やメタバースのようなバーチャル空間の両方を活用しながらネットワークをより強くして行きたいと締めくくった。